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ダレがナンと言っても(^^)
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気が付くとベッドに横になっていた。 部屋には電気が点いていて、食事から戻った時のまま何も変わったところはない。闇の中の出来事など無かったかのようだ。
あの感覚は何だったんだろう。 あの闇も、何かの存在も夢だったのだろうか。 しかし、水音だけが今も頭の中で鳴り響いている。

私は起き上がり、ベランダへ出た。 森は闇に包まれているが、湖から吹く風に葉のそよぐ音と木々の香りを乗せて、その存在を確かなものにしている。
風は冷たさを含んでいて、汗ばんだ私の肌に心地よく感じられる。
風に吹かれていると、頭の中の霧が晴れてくるような気がした。

シャワーでも浴びて仕事に取り掛かろう。 そう思ったとき、ドアをノックする音が聞こえた。
部屋を訪ねてくる知り合いなどいない。 さっきの事で幾分臆病になっていた私は、ドアを開ける前に声をかけてみた。

「誰?」
「私です。 お話があるのですが。」

その声はレストランのウェイターだった。 相手が分かって少しホッとしたが、わざわざ何の話があるのだろう。 ドアを開けると、薄暗くはあるが灯りが点き、やわらかい光が廊下を照らしている。

「お休みのところ、失礼します。」
「いや、構わないよ。 これから仕事に取り掛かろうと思っていたところだ。
 それよりも、こんな時間にどうしたの?」
「お食事のときにお客様が言っておられた事ですが・・・・・」

そう言いかけて、彼は私の肩越しに視線を送ると、息を飲み、私を押し退けベランダへと駆け寄った。
開け放した窓からは、相変わらず心地よい風が入ってくる。
彼は慌てて窓を閉めてカーテンをひき、ホッと息をついた。

「君、いったい何なんだ。 私が言っていた事って?」
「失礼しました。 日が落ちてからは窓を開けないようにお願いいたします。
 カーテンも閉めて下さい。 何が起こるかわかりませんから。」
「どういうこと?」
「森に入りたいと言っておられましたよね。」
「ああ、そのことか。 気晴らしに散歩したかったんだが。」

何か言い難いことでもあるのか、話すのを躊躇っているような、言葉選んでいるような様子だ。 見ると、彼はまだウェイターの制服を着ている。

「こんな時間まで仕事してたの? あまり客もいないみたいだったけど。」
「ええ、後片付けや食器と食材のチェック、掃除などしていました。 こんな時間と言ってもお客様がお戻りになられてから1時間ほどしか経っていませんが。」

信じられなかった。 たった1時間しか経っていないのだろうか。
もちろん時計を見ていたわけではないが、眠っていたであろう時間を考えても、真夜中にはなっているはずではないか。 やはりあれは夢?

「あの、お客様?」
「ああ、何だっけ。 森のこと?」
「そうです。 あまり大きな声で言えないのですが、お耳に入れておいたほうが良いかと思いまして。」
「森に何かあるの? それに何が起きるか分からないって・・・。」
「実は・・・」

彼の話は信じられないものだった。 
ここにホテルが建つずっと昔、もう何百年も前のことらしいが、湖の周辺には村があり、今ではそれを物語る痕跡など残っていない。
村人たちはある日忽然と姿を消したと伝えられており、その理由もはっきりしない。 もちろん何百年も前のことだから当然なのだが。
しかし今でも、当時の村人の姿を見ることができると彼は言った。

「何百年も前の話なんだろ? 当時の村人なんか生きてるわけないじゃないか。」
「普通の人間なら、です。 彼らは違うんですよ。」

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どれくらい眠っていたのだろうか。 水が滴り落ちるような音で目を覚ました。辺りは漆黒の闇。
一瞬、自分がどこに居るのか分からなかった。

ここはホテルだ。 それにしても真っ暗で何も見えない。 もう真夜中なのだろうか。 相変わらず、水音だけが幽かに聞こえている。 

しばらく待ってみたが一向に目が慣れてくる気配がない。 身体を起こしてベッドに腰掛けた。
いくら真夜中だとはいえ、こんなに暗いものなのだろうか。 時折、目を開けているのかどうかさえも分からなくなるほどだ。
ドアや窓の隙間から漏れてくる明かりもなく、まるで塗りつぶされたかのような闇が広がる。
その中から聞こえてくる水音は、忘れるほどの長い間隔をあけて、しかし規則正しく続いている。 いくつも先の部屋から響いているような音だった。
バスルームはまだ使っていない。 洗面所の蛇口もしっかり締めたはずだ。 第一、部屋に戻ってきたときには、水音なんてしていなかった。 

自分の部屋なら真っ暗でも歩き回れるし、どこに電気のスイッチがあるか容易に分かるが、何しろ初めて来たホテルでのこと。 部屋の様子を思い浮かべながら、手探りでドアまで進んでみることにした。 廊下へ出れば灯りがあるだろう。

しかし、こんな歩き方は無様だろうな。 鏡に映っていたら笑ってしまうだろう。
暗闇の中で、恐る恐る歩いている自分の姿を想像すると妙に可笑しい。
そんなことを考えていた時だった。

「何かいる!?」

私を取り巻く闇が蠢いているような感覚だった。 それが集まったり離れたり、まるで闇そのものが生きているかのようだった。
相変わらず何も見えないことに変わりはないが、何かの存在だけははっきりと感じることが出来た。
空間がうねり、歪み、何かを形づくるかと思えば、また散っていく。 そしてそれを繰り返しながら私に近付いてくる。

人間? 違う。 どこからか迷い込んだ動物がいるのだろうか? いや違う、そんな小さなものではない。
その正体を突き止めようと、私の海馬は今までに無いくらいフル回転している。 自分が接してきたものの中に、答えがあると思っていたのだ。 いや、答えがあって欲しかった。
こんなものの存在を感じるのは初めてだ。 実際に見たことも、触れたことも無い。

違う。 ひとつだけ、そう、ひとつだけあった。 あのモニターの影・・・。 
それを思い出したと同時に、私は生きた闇に取り込まれていった。
押しつぶされるような、同化していくような感覚。 眠りに堕ちていくのにも似た感覚の中で、幽かだった水音だけが次第にはっきりと聞こえてきた。

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気が付くと辺りは薄暗く、森の向こうに夕日が沈もうとしているところだった。
夕日に染まった木々の影が湖面に映って、不思議な風景を描き出している。
風向きが変わったのだろう、 森からの湿気を含んだ冷たい風が部屋の中に流れ込んでくる。
しばらく風に当たっていると、頭の中がすっきりしてきた。
久し振りにパソコンに向かっていると楽しいのだが、やはり疲労感がある。 もっともこんなことはここ数年無かったのだから仕方がないが。
 
気分転換も兼ねて食事をしに部屋を出た。
ホテルのレストランは大きくはないが、調度品や家具、食器などは品のいいものが揃っている。
隅々まで手入れされていて、この建物と同じように歴史を感じさせるものばかりだ。
食事も今の私にとってはもったいないくらい満足のいくもので、コースの組み立ても食材も吟味されている。
 
客は思ったとおり少なく、窓際の少し離れたテーブルに、年配とまではいかないが夫婦らしい二人連れと、入り口に近いテーブルに小ぎれいな身なりをした一人の老婆が座っている。
 
「皆様、ここからそんなに遠くないところにお住まいの方々ですよ。
 時にはここでゆっくり過ごしたいと、時々いらして下さるんです。」
 
ウェイターはワインを注ぎながらそう言った。
 
「常連さんなんだね。」
「そうです。 毎回一週間くらい滞在されます。
 こんな何もないところですから、本を読んだり景色を楽しまれたりしておいでです。」
 
客の少ない時期でもあり、私が初めてで珍しい客だからか、ウェイターも饒舌で良い話し相手になりそうだ。
 
「お部屋はお気に召して頂けましたか?」
「ああ、とても眺めが良いね。 落ち着く部屋だよ。 つい時間を忘れてしまう。」
「ありがとうございます。 お仕事は捗りそうですか?」
「まだ取り掛かったばかりだけど、何とかなりそうだ。 最もこの先は私の実力だがね。」
「サインを頂いておかないといけませんね。 ベストセラー作家が原稿を書くのに利用したホテルだって宣伝できますよ。」
 
私たちが食事を終えれば、彼の仕事も終わりなのだろうか、気楽さから話が弾む。
私はコーヒーを飲みながら、ふと思いついて聞いてみた。
 
「この湖は随分大きいのかね? 森の向こうまで広がっているようだけど。」
「ええ。」
「森の中には入れないのかな。 明日の朝にでも湖の周りを散歩してみたいんだが。」
 
「・・・・・・・・・・。 あ、あの、お客様。」
 
先程までの楽しげな様子とは明らかに違う、一瞬ためらったような彼の口調に、私は何か不自然なものを感じた。
 
「どうしたの?」
「いえ、失礼いたしました。  森の中に入れないことはありませんが、何もありませんよ。
 地面がぬかるんでいて歩きにくいので、転んだりなさるかもしれません。
 止めておいたほうがよろしいかと思います。」
 
彼は元の明るい口調でそう言うと、私の話し相手を辞退し仕事に戻っていった。
 
食事を終え、部屋に戻りながら彼の様子を思い出していた。 森に何かあるんだろうか。近寄らせたくないような何かが。 
あの一瞬でそう思わせるほど彼の様子はおかしかったし、それに合わせて私は昼間の影のことを思い出していた。
あのパソコンに映った影。 自分の影かと思っていたが、こうして考えると自分の姿かたちとはまったく違っていたようにも思える。
 
部屋に戻った私は、何か引っかかるような思いはあったが、満腹感で仕事に向かう気にはなれず、そのままベッドに横になった。
ベランダへ出る窓に森からの風が当たって、時折ガタガタと音を立てている。
続きはひと眠りしてからにしよう。
何気に目を向けたパソコン。 電源はまだ入れていない。 
真っ暗なその画面に、また何かが映っているような気がした。
しかし、それを確かめることも出来ずに、そのまま私は眠りへと堕ちていった。
 

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とは言え、今までの荒んだ生活の中では何も書けはしないだろう。
何か小説の題材になるものを探すために、いや、それよりも、自分自身を立て直すために取材旅行にでも出かけようと思った。
普通なら書きたい内容に沿ったところへ行くものだが、どこでも良かった。
長いブランクの後だったから、とにかく場所を先に決めて、そこで書けるものを書こうと思ったのだ。幸い、出世払いということで、友人から幾らかの援助もあった。

最初に思いついたのが湖だった。
木々の葉が風に揺れる音、水際にかすかに寄せる湖水、鳥のさえずり、月を映す湖面・・・・・。
こんな風景の中に身を置けば、自分なりに納得するものが書けるだろう。

何故あの湖に行こうと決めたのか、今でも分からない。
写真やガイドブックで見たことも、ましてや行ったことなど無く、何気なく地図を見ていて気になっただけの場所だが、実際に行ってみると自分の抱いていたイメージにピッタリだった。
静かで豊かな水を湛え、緑深い森の姿を映す湖は例えようもなく美しく、森に住む動物や鳥たちの声を連れた風が湖面をわずかに波打たせている。

湖畔に建つ小さなホテルに半月ほど滞在するつもりで、最低限の生活用品とパソコン、それに本を何冊か持って来ただけだ。
少し足を伸ばせば小さな街がある。不自由はしないだろう。
チェックインを済ませ案内された部屋は、湖に面した2階の部屋だった。

「このホテルで一番見晴らしのいい部屋ですよ。時々、画家の方がお泊りになられるんです。」

ベルボーイの言ったとおり、ベランダからは湖と森のほぼ全体が見渡せた。
確かに私が画家だったら、この風景を良い題材にするに違いない。

まだシーズンには早いのか、私の他に泊り客はほとんど居ないようだ。お陰でよい部屋に泊まることができたが、建物の古さと人気の無さのせいか部屋の空気がやけに冷え冷えとしている。
部屋に戻って仕事の準備をしようとパソコンを取り出し、電源を入れた。

「!?」

いつもなら気にもしない画面に何かが映った気がした。
一瞬の出来事。光の加減で自分の影でも映り込んだのだろう。
よくあることだ。私は自分にそう言い聞かせた。

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原稿の締切りが迫っている。 あと24時間だ。
しかし、それまで『私』は『私』で居られるだろうか。 あと数時間、もしかしたら数分かもしれない。
この原稿は私にとって、おそらく最後の作品になるだろう。
今にして思えば、友達の編集者がお情けで回してくれた短編の小説がきっかけだった。
 
若手の作家として泣かず飛ばずではあったが、自分の好きなことが仕事として続けられる毎日は、決して楽ではないが、とても充実していた。
しかし、やはり限界は来る。 たったひとつのことがうまく行かなくなると、あれもこれも、すべてのことが滞ってしまうものだ。
自暴自棄になった私は当然仕事などできる訳もなく、ただ、過去を振り返るだけの毎日を送っていた。
 
「以前は人気があって部数も伸びてたじゃないか。僕も君の書く小説は好きだったよ。もう一度、以前のような作品を書いてみないか。」
 
私の様子を見かねた彼の言葉は正直嬉しかったし、できることなら以前の私に戻りたかった。
いや、確かにそうなったのだ。 それも、以前の私以上の『私』に。
あそこで、あんな体験をしたから・・・・・。
 
 

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